そこで同じ燃料電池車(FCV)であるトヨタ・MIRAI(ミライ)と比較してみました。電気自動車もそうですが、水素で走る燃料電池車ってことであまり違いはないのかと思いきや、意外に異なる部分も多かった件。
車体の大きさ
一見すると似たような両者ですが、まず車体サイズが違います。ミライの車体サイズは4890×1815×1535mm(全長×全幅×全高)。クラリティの車体サイズは4915×1875×1480mm(全長×全幅×全高)。クラリティの方が一回りほど大きめ。一方、ミライの方がやや背高なのでクラリティはクーペスタイルと言えます。
ただクラリティの全幅がさすがに1.9M近くなってくると日本の狭い道路では扱いづらいか。
室内・車内の広さの違い
続いて、室内空間の広さ。ミライは2040×1465×1185mm(室内長×室内幅×室内高)。クラリティはは1950×1580×1160mm(室内長×室内幅×室内高)。スペックだけ見たらミライの方が大きそうですが、乗車人員はミライが4人乗りに対してクラリティは5人乗り。
何故、クラリティの方が車内が大きいのか?
理由は、クラリティは電気モーターやコントロールユニット、昇圧コンバータや燃料電池スタックといったパワートレインをボンネット下に格納できているから。クラリティのパワートレイン全体の大きさは「V6エンジン並み」に小型化(先代FCXクラリティ比でマイナス33%)されていて、普通のガソリン車やディーゼルエンジン車といった「いわゆるFF車」と同じパッケージングを実現してる。
逆にミライは専用プラットフォームを採用していて、パワートレインは前席センターコンソール下あたりの床下に配置されてる。それだけミライは前席の空間が狭くなりがち。一方で価格を抑えるために、ハイブリッドのTHSⅡのパーツを流用されている点もデメリットのはず。
また後席空間に関しても、水素タンクはどちらも後席下と後席背後に配置されてるんですが、クラリティの方が後席下に配置されてるタンクが小さめ。逆にミライの水素タンクは大きめなので、後席シートクッションが薄くされるといった措置が取られています。
とはいえ水素タンク容量はミライが122.4Lに対して、クラリティは141L。ガソリン車でもタンク容量が50L60Lですので、FCVのタンクはめちゃめちゃ大きい。一応、全体で見るとクラリティの方がタンク容量が結果的に大きく、それだけ後席背後の水素タンクが大きいんですが、実はクラリティの荷室容量は犠牲になってない。
9.5インチのゴルフバッグが3個まるまる入ります。ミライも同じくゴルフバッグが3個入るんですが、スペックだけ見るとクラリティの荷室容量が394Lに対して、ミライは361Lと割りと大きな開きがあります。
他にもミライのバッテリーはニッケル水素電池を使用してるのに対して、クラリティはリチウムイオン電池。言うまでもなく、ニッケルの方がサイズ感があります。他にもセンタータンクレイアウトといった特許など、そういった細かい積み重ねが両者の差に現れているのだと思います。
動力性能・加速感・航続距離・燃費
続いて動力性能の違い。ここも一見すると同じっぽいですが、意外に異なります。燃料電池スタック出力がミライが155PS、クラリティが140PS。モーターの最高出力がミライが154PS(113kW)に対して、クラリティは177PS(130kW)。最大トルクは34.2kgm(335Nm)に対して、クラリティは30.6kgm(300Nm)。
ざっくり言えば、ミライはトルク型(出力が2.0Lエンジン並、トルクが3.5Lエンジン並)。クラリティは出力パワー型(出力が2.5Lエンジン並、トルクが3.0Lエンジン並)と言えます。これは最高速度にも違いが出て、ミライが175km/hに対してクラリティは165km/h。
自動車雑誌さんによる試乗の評判や評価を見てみると、やはりミライの方がパワー感があるスポーティーな走りをしているそう。逆にクラリティはアクセルレスポンスに優れていて、急加速によるパワーの伸びはミライを凌駕しているそう。スポーツモードは更にパワフルだとか。
ちなみに燃費性能。水素電池車で燃費というのも違和感がありますが、カタログ値ではミライが650kmでクラリティが750kmだそう。確かに前述のように水素タンク容量の違いを見れば頷けます。
ただ実際の航続距離はミライだと400km、クラリティが500km程度とのこと。やはり空気抵抗や天候などで左右されるんだと思います。つまりミライがリッター3.2km程、クラリティはリッター3.5km程ということ。意外にまだまだ改善の余地がありそうです。
乗り心地や静粛性
続いて乗り心地。結論から書くと、シャシー性能はクラリティの方が上回ります。何故なら、サスペンション形式(F/R)はミライがストラット/トーションビーム。クラリティがストラット/マルチリンク。ミライの方が簡素なタイプで、クラリティは世界初のアルミ中空ダイキャスト型サブフレームを採用した高級タイプだから。
クラリティの足回りはしなやかで、ステアリングフィールも自然。ロードノイズも上手いこと低減されてある。また四輪独立サスペンションは車速域に関わらず、路面に吸い付くように追従してくれるそう。首都高の継ぎ目を乗り越す場面でも45タイヤ・低燃費タイヤの硬さは感じさせない。ワイドトレッドも相まって、したたかなロール剛性も両立されている、とのこと。
そして遮音性が高いガラスを採用するなど、静粛性でもクラリティの方が一枚上手。
FCVでもガソリン車と同様に(仕組みは違いますが)、酸素を取り込まないと発電できない。そこで空気を送風する装置が必要なんですが、両者はそこでも違いがあります。
ミライの送風装置が豊田自動織機製の「六葉ヘリカルルーツ式コンプレッサー」。クラリティの送風装置が「電気式ターボ供給」。名前的にファン的なものが回転するのか、ミライの場合は加速を行う時にガソリンエンジンのような音が発生するそう。逆にクラリティはそれがない。
また水素ポンプの音の発生具合にも差があって、クラリティの方が圧倒的に静からしい。
装備面と価格・値段の違い
ラストは装備面の違い。ミライの価格・値段は723万6000円に対して、クラリティは766万円。当然後出しのクラリティの方が性能は優れてるものの、それでも意外と価格差があります。上がミライ、下がクラリティ |
新型プリウスPHV |
他にも、例えば自動ブレーキ。ミライはミリ波レーダー+単眼カメラタイプ。車線逸脱警報システムや追従クルコン(ACC)も設定されてます。クラリティの自動ブレーキはホンダセンシング。同じくACCが設定。
ただホンダセンシングは人間相手で自動的に止まれる点が大きいです。だからミライの自動ブレーキはセーフティーセンスPではないと予想してみます。
LEDヘッドランプもミライが4灯式に対して、クラリティは9灯式フルLED(オートコントロール付き)。パーキングブレーキもミライは足踏式、クラリティは電動式。またクラリティはAppleCarplayに対応したカーナビや、フロントガラスに速度制限を表示させるなど、割りと先進的な装備も充実。
全体的にはクラリティの方が装備は豪華。十分価格差に見合うのではないか。ただパワーエクスポーターはあるものの、ミライに搭載されているAC100/1500Wのコンセントがないそう。燃料電池車や電気自動車では欲しい所。
ただどちらにしても価格はかなり安い。メルセデスベンツ・Eクラスとほぼ同価格帯。BMW・7シリーズのほぼ半額の値段。その程度の価格で水素電池車が購入できるんだから、かなりお買い得と言わざるを得ません。
総合評価
意外にも比較してみると、クラリティの方がクルマとしての性能は高かったらしい。自動車雑誌では、クラリティはハードウェアは文句つけようがない完成度。まさに新技術が惜しみなく投入されている。ホンダ自身も「やりきった感がある」と豪語しているそう。それぐらい今のホンダで一番よくできたクルマ。といった評価がされています
ホンダは次期PHVとプラットフォームを共用化していて、まだアメリカのGMとも提携済み。またパワーユニットの汎用性も高いですので、ホンダにV6エンジン車はないですが、ミニバン車をFCV化すれば法人需要を更に掘り下げられるかも。将来性の高さでもミライより期待できるのかも知れません。
あくまでFCVは法人向けがメインだと思うので、頻繁にテコ入れは行われないと思います。だからこの記事の比較情報はすぐ役に立たなくなるってことはないはず。
ちなみに経済産業省が本気で燃料電池自動車(FCV)を普及させようと考えてるなら、水素ステーションの普及も同時に欠かせません。そのために水素は再生可能エネルギーで生産する必要があります。
特に小水力発電だと川はどの地域でも流れていて、また時間も一日中流れてるので最も向いていると言えます。石油のように国際情勢や為替による影響も受けない。調達コストが安ければ、設置コストやFCVの購入費用が高くても導入が進めやすくなる。原子力発電よりも安全で、政治的なリスクも抱えてない。是非国交省など別の組織も巻き込んで本気で頑張って欲しいと思います。