だからTPP自体には賛否両論もあるようですが、個人的に気になるのは「日本の自動車輸出は増加するのか?」ということ。自動車の輸出が増えたら、きっと雇用も増えるはず!
そこでまず各国が設けていた自動車に関する関税がどう変化するのかを見てから、最終的に新車の輸出が増えるか予想してみたいと思います。ちょい長文注意。
アメリカ合衆国
最初は僕らのアメリカ合衆国。中国に次いで、世界第二位の新車販売大国。特に日本車が幅広く売れてて、新車販売ランキング上位10車種の半分ぐらいを占めてます。2015年4月の新車販売台数は、トヨタ自動車だとカムリが3万4066台、カローラが3万1990台。ホンダ自動車だとCR-Vが2万9452台、シビックが2万8380台。アコードも同じぐらい売れてます。日産自動車だとアルティマやローグが毎月2万台以上。
これら「乗用車」の関税率は現在2.5%と低め。でもTPP批准から15年目でようやく関税が下がり始めます。20年目で1.25%に半減。20年目で0.5%まで低減。25年目でようやく関税が撤廃(0%)。段階的にジワジワ下げるにも程がある(笑)「バス」は10年目で関税が0%。
世界では「ピックアップトラック」のジャンルが人気。トヨタ自動車もアメリカで奮闘していて、タコマとタンドラが人気。2015年4月だとタコマは1万5656台売れてる。ハイラックスという車種も中東地域などでは支持されてます。ただ、やはりピックアップトラック分野はアメリカ企業が強い。
だから「トラック」の現在の関税率は25%とかなり高めに設定されてます。これがTPP批准でどう変化するか気になりますが、なんと29年後までこの関税水準が維持されます。そして【30年目】でようやく関税0%になります。アメリカさん、自分たちの聖域をゴリゴリに守ってくれてます!!
先日記事化しましたが、トヨタ自動車は【35年後(2050年)】にガソリン車を廃止する目標を掲げてますので、TPPによる関税撤廃の恩恵を受けるのはかなり難しそう。少なくとも、日本国内でピックアップトラックを製造してアメリカへ輸出する流れは生まれないはず。
続いて「自動車部品」。
エアバッグ、バックミラー、ワイパーなどの関税は即座に撤廃されます。他にも色んな部品が即座に関税が撤廃されますが、あまりに多いので詳細は割愛します。1000~2000ccの小型ガソリンも関税が即座に0%へ。2000cc以上のエンジンは5年目以降に関税が0%へ。
電気自動車が地味に売れているアメリカ。特にテスラというメーカーが大人気。だからか知りませんが、EV用のリチウム電池は15年目でようやく関税が撤廃されます。遅い。
同じような理由で、タイヤは10年目で0%へ。ブリジストンやヨコハマタイヤなど日系メーカーが世界的に強いからか、それなりに抵抗があったと推察できます。アメリカ以外の国でも、タイヤに関しては即座に関税が撤廃されるケースは少なめです。
でも逆に考えると5~10年後、タイヤメーカーは更なる成長が期待できます。株でお金儲けしてる方は、今のうちタイヤメーカーの株を買っておくと良いのかも知れません。
カナダ
アメリカのお隣の国・カナダ。昔からリベラルなお国柄らしい。まず日本メーカーの新車販売台数(2015年4月)を見てみます。ホンダ・シビックが5545台、トヨタ・カローラが3967台、マツダ・アクセラが3700台、ホンダ・CR-Vが3599台、トヨタ・RAV4が3422台。カナダの人口は3000万人と少なく、また隣国がアメリカということも考えると、日本車は健闘してると言えそう。
その「乗用車」の関税率はTPP批准で即座に5.5%まで低減。2年目で5%、3年目で2.5%、4年目で2%、5年目で完全に撤廃されます。日本メーカーにとっては追い風に見えます。ちなみに「バス」は11年目で0%、「大型ガソリントラック」は6年目で0%。
ただホンダは現地生産or海外生産が徹底されてるので、カナダに対する輸出増が期待できるのはマツダとトヨタの一部車種ぐらいだと思われます。だからカナダへの自動車輸出がどこまで伸びるかは不透明。
「自動車部品」はバンパー、シートベルト、サスペンション、エアバッグなどが即座に関税が撤廃されます。タイヤはやはり撤廃時期は少し遅くて、4年目にようやく0%に。エアバッグは日本のタカタが強かったですが、例の問題でどこまで輸出増が期待できるかは不透明?
メキシコ合衆国
同じくアメリカの隣国・メキシコ合衆国。日本車の売れ行きを見てみると、日産車がとにかく強い。2015年4月の日本車上位を見てみると、日産・ヴァーサ(ラティオ?ノート?)が4687台、ツル(往年のサニー)が4289台、マイクラ(マーチ)が3661台、セントラが2606台、エクストレイルが2379台。日産が独占状態。
ただメキシコの人口は日本とほぼ同じぐらいですので、日本車が爆発的に人気で売れてるとは言いがたい。いや、メキシコの平均年収100万円ちょいらしいので、その割には売れてると言えるのか。確かに売れ筋車種もなんだか古い車が多めです。
で、TPPに話を戻すと「乗用車」と「小型トラック」の関税はなんと即座に撤廃。「バス」や「中型大型トラック」は11年かけて削減するそう。現在の関税率の最大75%分?ちょっと色々とややこしいっぽいので詳細は割愛(笑)
「自動車部品」もエンジン部品や車体の関税が即座に0%に。実はメキシコは自動車部品の輸出に強いらしく、国内へ他国製品が流入するデメリットよりも、海外へ打って出るメリットを選択したんだと考えられます。
ニュージーランド
残りの国はテキトーにザックリいきます。まずはニュージーランド。「バス」「トラック」の関税は即座に0%。「自動車部品」ではエンジンやタイヤなども即座に0%。冷やすことに使われるラジエーターは7年目で撤廃される予定。もしかするとニュージーランドではラジエーターメーカーが強いのかも知れません。
ちなみにマツダ車が売れてる、オーストラリアではEPAが日本との間に2015年1月に発行されていて、既に関税がほとんど撤廃されているような状態だそう。
ベトナム社会主義共和国
東南アジアのベトナム共和国。「乗用車」の関税が撤廃される時期は、3000cc以下だとTPP批准から13年目。3000cc以上だと10年目。「バス」「トラック」は13年目で関税撤廃。「自動車部品」はエアコンが即座に0%。タイヤは4~11年目。サスペンションは6年目、クラッチ部品は11年目。車体も同じく11年目。
ベトナムは中国と同じく共産国家みたいなもんだから国営企業・国有企業が多く、どうしても関税撤廃までには時間を要する模様。でもベトナムが参加したってことは、いずれ色々と言われてる中国もTPPに参加する可能性も?
マレーシア・ペルー
ラストはマレーシアとペルー。「乗用車」の関税が撤廃されるのは、マレーシアが3~13年目(新聞情報だと曖昧)。ペルーが1500cc以下は即座に撤廃。1500cc以上の一部車種でも撤廃されるそう。
評価まとめ
以上、長々と見てきましたが、結論を書くと「TPP批准で新車の輸出はさほど増えない」と思います。何故なら、乗用車の関税が即座に撤廃される国は、そもそも市場が大きくない国も多い。またホンダを筆頭に海外生産が進んでいます。ただでさえ円安が進んでも輸出が増えてない現状も鑑みると、少しの関税が撤廃されたところで所詮は知れてると考えられます。
特に自動車市場が大きいアメリカ合衆国向けの関税が維持されてることは痛い。トラックの関税に至っては、もはやフザケてるレベル。ヘイヘイ、アメリカさんビビってるー!?とさすがに煽ってみたくもなります(笑)
もちろん日本車はアメリカで既に売れてるので、良くも悪くも「現状維持」が関の山ってところでしょう。それだけ日本はもともと世界的に開かれた国だった裏返しでもありますが。
一方、自動車部品。いわゆるサプライヤー関係では期待できそう。自動車部品全体の8割が即座に関税撤廃されるらしく、トータル500億円程度の負担軽減がTPP批准から見込めるとのこと。もちろんこちらも輸出増をすぐに見込めるか、またTPP域内で製造した自動車部品の55%以上使用義務化もどう転ぶか不明ですが、少なくともTPPが批准されるだけでこれら企業の経営環境は改善されそう。
ただ懸念したいのは、日本メーカーの海外生産に拍車がかかること。何故なら、車完成品より自動車部品の方が先に関税が撤廃されるケースが多い。まさにアメリカが顕著。このタイムラグを考えたら日本国内へ生産回帰するメリットがないどころか、これまで日本国内に工場を留めざるを得なかった「制約」みたいなもんが消滅すると言っても良さそう。だから自動車輸出は更に減少する可能性も?