2015年5月10日日曜日

自動車の素材 炭素繊維がアルミを超える可能性はある?



大阪ガスのエネルギー技術研究所は7日、プラスチックの強化材に活用できる超微細繊維「セルロースナノファイバー(CNF)」を開発したことを明らかにした。(中略)自動車の車体など幅広い製品で活用が期待され、3年後をめどに商品化を目指す
http://www.sankei.com/west/news/150508/wst1505080015-n1.html
最近、大阪ガスが炭素繊維を超える「夢の素材(セルロースナノファイバー)」とやらを開発して話題になってました。軽くて強度が強い性質があって、炭素繊維の価格よりも多少安いということで、自動車の車体に採用される日も近い?とのこと。クルマに求められる燃費性能が年々厳しくなってるので、車体の軽量化は自動車メーカーとして急務の課題。

ただ現実問題として、炭素繊維ですら自動車の車体に組み込まれることはほとんどない。そこで増えているのがアルミニウム素材。じゃあ炭素繊維がアルミニウム素材を超えることはあるのか考えてみた。


アルミと炭素繊維の価格比較

2014年にメルセデスベンツ・Cクラスがフルモデルチェンジをしたときに、車体の半分をアルミ素材を採用したことで話題になってました。確か100kg近い軽量化を果たしてたはず。

日本ではあまり存在感がないですが、アメリカのフォードが発売したピックアップトラック「F-150」でも同じくアルミ素材を採用して、こちらは320キロ近い軽量化。ピックアップトラックだけあって、車体の15%程度に採用しただけでこれだけの大幅な減量。

一方、電気自動車であるBMW・i3は車体に炭素繊維を採用してる。ただアルミ素材も炭素繊維も、やはりどちらも量販車に採用されてるケースは少ない。

アルミは圧延品の国内平均が約460円(1月時点)。炭素繊維は2000~3000円とみられ、採用は高級車にとどまり、大衆車に普及しにくいのが実情だ。
そこで価格を見てみると、アルミが1kg460円に対して、炭素繊維は1kg数千円。炭素繊維の方が、ほぼ4倍から6倍ほど価格が高い。

Q5.     アルミからCFRPに材料を変えたら価格はどれ位アップしますか?
A5.     形状・性能等により大きく異なりますが、概ね、2~10倍と云ったところです。
http://www.sankyo-ss.co.jp/faq.html
また一方では、炭素繊維はアルミニウム素材よりも10倍以上高くなるという情報もあったりして、とにかく両者の価格差はエグい。個人的には想像以上に炭素繊維の価格が高かったという印象。

アルミと炭素繊維の重さ比較

じゃあ炭素繊維がこの価格差を補って余りあるほど、アルミニウム素材よりも軽量なのか?

そこで自動車に多く採用されている鉄鋼と比較してみると、アルミニウムは鉄のおよそ3分の1の重さ炭素繊維は鉄のおよそ5分の1の重さ

分かりやすいように具体的な数字で比較すると、鋼鉄100kg分のパーツがアルミに変えると33kgになって、炭素繊維だと20kgになるということ。要するにアルミだと66kgほど軽量化できて、炭素繊維だと80kgほど軽量化できる計算。差にすると14kg程度の差。

ただ軽量化の程度だけ見たら炭素繊維がもちろんダントツなんですが、価格を考慮するとアルミと炭素繊維に際立った差がないと言っても良さそう。BMW・i3のように小さい車体だったらバリバリ採用できるとしても、逆に小さい車体だと結果的に軽量化できる範囲も知れてそう。

だから正直そこまで炭素繊維を優先的に使うメリットがないのが実情ではないでしょうか?自動車の価格が安くならない現状、高価すぎる炭素繊維が主流になったとしてもかなり遠い未来だと思います。

鉄鋼にはハイテン材がある

そもそもアルミニウム素材ですら、自動車の車体に使う素材として主流になれるかは正直微妙なところ。何故なら、鉄鋼の価格が1kgあたり数十円程度だから。アルミ素材の価格が500円近かったことを考えると、アルミと炭素の比を超えてる。

あと鉄鋼には「ハイテン材」という高張力鋼が最近主流になりつつある。ずっとアルミだと思ってたことは内緒ですが、ザックリ言うと、めっちゃ薄く伸ばした鉄鋼素材。しかも薄くすればするほど強度も高まるらしく、ヘタするとアルミ素材よりも軽量なことも。軽自動車だとスズキ車が率先的に採用して、かなり燃費性能が向上したことは記憶に新しい。

そういった技術力の向上で鉄鋼素材も劣勢と言われつつも挽回してる。ハイテン材はプレスや成型しづらいというデメリットはあるものの価格の安さを考えると、今後も鉄鋼素材が自動車の骨格や車体で使う素材の主流になると思います。

そろそろダイハツの軽自動車・ミライースがフルモデルチェンジするそうですが、最近はプラスチック樹脂(炭素繊維とは違う?)の車体も増えつつあります。確かハイテン材よりは若干安かったと記憶。だから価格面でそれなりに強みがないと、いくらアルミや炭素繊維が超軽量な素材だとしても、自動車の車体に多く採用されるかはこれからも難しそう。