2016年9月25日日曜日

【比較】アバルト 124スパイダー試乗まとめ ロードスターとの違いはあるのか?



2016年10月8日にアバルトから「124スパイダー」という新しいオープンカーが発売されました。アバルトと言えばモータースポーツ界におけるチューンメーカー。アバルトは元々は普通の自動車メーカーだったものの、1971年にフィアットによって買収されました。それ以来、アバルトはフィアット車をスポーティーにチューンナップした改造車の販売を手がけています。

このフィアットは2013年からマツダと協業しているのは有名な話ですが、そのときにマツダ・ロードスターをアバルトでチューンナップしてから販売することが発表されました。いわゆるOEMというヤツだと思いますが、海外メーカーとの間で行われるのは珍しい話。

このフィアット(アバルト)版ロードスターの名前が「124スパイダー」。新型車とは言っても、この124スパイダーの名前は実は歴史が古い。フィアットが1966年に販売した小型車のオープンモデルの名前がそれ。

そしてアバルトが買収された直後にWRCに参加した時の車にも使われていた車名で、しかも何度か優勝も果たしている。それだけフィアット(アバルト)はロードスターに対して本気度を見出してることが伺えます。

124スパイダー ロードスター 比較画像
カートップ10月号
そこで前置きは長くなりましたが、124スパイダーの試乗インプレッション情報をまとめてみました。果たして124スパイダーとロードスターとの間に違いはあるのか?など比較した視点でも考察していきます。



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124スパイダーとロードスターの見た目の違い


まずは124スパイダーとロードスターの見た目の違いを見ていきたいと思います。

冒頭に貼った画像を見ても分かりますが、両者の違いは割りと大きい。ヘッドライトの形状からして大胆に違いますし、エアインテークやフロントグリルのデザインも違います。オープンカーはデザインに制約がいろいろありそうですが、自動車に詳しくない人が見れば124スパイダーとロードスターが元々は同じ車だとは気付かないでしょう。

124スパイダー ロードスター 比較画像 360度
カートップ10月号
四方八方から124スパイダーとロードスターを比較すると、こんな風になるらしい。さすがにサイドから見たら同じ車に見えますが、リア周りの雰囲気はフロント以上に異なる印象を与えます。ロードスターはお尻がキュッと突き上がってるのに対して、124スパイダーは良くも悪くも常識的なデザインに見えます。

ただサイドの長さは同じように見えますが、実は124スパイダーの方が全長が7cmほど長い。ベストカーの鈴木直也さんによれば、「124スパイダーはロードスターより一回り大きく見えた」らしい。確かにロードスターは前後をキュッと絞り込んだデザインに対して、124スパイダーは張り出てる感じです。

また前軸重量は610kgとロードスターよりも60kgほど重い。だから124スパイダーとロードスターとでは前後重量配分に違いがあって、それが試乗にどういった影響を与えるのか。そもそも124スパイダーの車重は1130kgと、ロードスターよりも100kg近く重いんですが、この理由などについては試乗情報と共に後述します。

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124スパイダーは専用アルカンターラシートを採用

また内装(オープンカーに内装ってのも変な感じもしますが)でも両者との間では細かい違いがあります。

例えば124スパイダーのシートは専用のアルカンターラシートを採用してる。ロードスターよりもホールド性が高くて、ドライバーの包まれ感が強い。つまりはドライブしてる時の快適性が高い。だからロードスターの方がOEM供給してる側なのに、乗り心地といった点では124スパイダーの方が優れてる。

124スパイダー ロードスター 内装室内 比較画像
カートップ10月号
具体的に内装を比較した画像を見てみると、メーター周りなど124スパイダーの方がやはりスポーティーかつ高級感がある雰囲気がします。日本でもOEM供給されてる側は、本家を超えるぐらいに内装などを改造しても良いのかも知れません。

ただ専用シートは後付けだからかも知れませんが、124スパイダーの方が着座位置が高いなど運転環境が比例してアップしてるワケではないのが注意したい所。最近国産車でもスズキ・アルトワークスが発売されましたが、運転席のレカロシートが全然設計が合ってなくて着座位置が高すぎてやや不評気味。

ちなみにこの他の124スパイダーの注目点としては、ロードスターにはないクルーズコントロールが標準装備されているそう。逆にロードスターにクルコンが付いてないのはやや意外でした。

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124スパイダーは「1.4Lターボ」にエンジンが換装


そしてここからがいよいよ本題。124スパイダーの試乗インプレッション情報を見てみたいと思います。普通OEM供給と聞けばガワ(見た目)だけ変えるパターンが多いですが、しっかり中身は違ってるのか。

ただ124スパイダーはアバルトがチューンナップしてるだけあって、エンジンが完全に換装されてるらしい。ロードスターは1.5L NAエンジンなんですが、124スパイダーは1.4Lマルチエアターボエンジンへ進化しています。つまり「非ターボがターボ」へ。排気量こそ124スパイダーの方が落ちますが、スペックそのものはロードスターを凌駕。

最高出力は131PS/96kWから170PS/125kWへ。最大トルクはもっとすごくて、最大トルクは150Nm/15.3kgmから250Nm/25.5kgmへ。多分トルクの太さは2500ccエンジン並みかそれ以上。これが先程124スパイダーの車重が重いと言った理由になります。

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124スパイダーはトルクに満ちた力強い走りがおすすめ


だから124スパイダーは100kgほど重いものの、実は「トルクに満ちた力強い走り」「いざ走り出してみると想像以上に力強い」とこの試乗記事では評価されています。ターボエンジン特有の低速トルクの太さから、上り坂のワインディングロードでもアクセルをベタ踏みする必要が一切ない。

124スパイダーはコンパクトにも関わらず、ストレスがない伸びの良い加速感を実現しているとのこと。高速巡航性の高さは抜群。124スパイダーのエンジン音からして、スターターを回した瞬間から「バボォン」と騒音規制に引っかからないか心配になるほどのボリューム。

またギアも1速がローギヤードで2速から5速はハイギヤードに設定されていて、1速と2速のギヤ比が離れてるおかげでターボを効かせて走るにはちょうどいい設定具合だとのこと。

一方、124スパイダーのベース車・ロードスターはどうなのか。

非ターボのNAエンジンではあるものの非力さはなく、アクセルの踏みこみ具合と速度がピッタリと連携していることが要因。何より100kgほど124スパイダーより軽量ということも影響しているのでしょう。ロードスターはロードスターでリニアなアクセルレスポンスは魅力。

ベストカーの鈴木直也さんが試乗では、ロードスターの方が高回転域までスッキリ抜けの良いスムーズな吹き上がり感は、6000rpmあたりで頭打ちになってしまう124スパイダーよりも洗練度は上とのこと。やはりターボエンジンは高回転域は得意ではないんだろうと推察されます。

オワコンと言われて久しい野球のピッチャーで例えるなら、124スパイダーは豪速球を売りにしたピッチャーで、ロードスターはキレの良いカーブなどを投げるピッチャーといったところか。

ちなみに124スパイダーには「ノーマルモード」というスロットルバルブの開き方を緩める、スイッチボタンもシフトノブ手前に用意されているそう。日常的に使う分には実燃費を意識して、そういったマイルドなセッティングで走行することも可能です。

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操舵性は軽快で乗り味はロードスターよりオーソドックス


続いて足回りや操舵性。やはり両者との間では味付けが全く異なります。

124スパイダーはビルシュタインダンパーを独自にチューンナップ。フロントサスペンションの踏ん張り感を強くすることで、ハンドルの効きが素晴らしく旋回スピードが速い。逆にリアサスペンションのストロークを長くすることで、トラクション性能が高まってる。

124スパイダーは、良くも悪くも「極めてオーソドックスなFRスポーツカー」らしいチューンナップが施されているとのこと。試乗記事では「ロードスターRSに方向性が近い」らしく、124スパイダーはロールしにくいことでワインディングロードでも安心感がある味付けとのこと。

一方、ロードスターの乗り味は人馬一体をアピールするマツダ車らしい乗り味。ロールスピードは速いもののハンドリングが軽快であり手足のように車を操れる感覚を体現されてる。アクセルレスポンスの良さでも言えますが、目先の数値にとらわれずに「自動車の良さ」というアイデアを追求したクルマづくりをしてるんだと感じさせます。

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土屋圭市も試乗で大絶賛の124スパイダー

土屋圭市は試乗後に口にした言葉は「おもしろい」の一言だったらしい。それだけ正真正銘のFR車の楽しさを味わえるスポーツカーだとのこと。

1.4L直4ターボエンジンも「パンチ力があって6500rpmまでしっかり回転してトルクも出る」と評価。それよりもエンジンパワーに対してミッションのギヤの振り方が上手く、2速3速4速の一番美味しい部分がしっかり使えると、アバルトの絶妙なセッティングの上手さを褒めている感じです。

「トルクバンドから落ち込んだろころにギヤがあるんじゃなくて、落ち込むちょっと手前ぐらいで次のギヤにいける」と常にエンジンが元気にぶんぶん回ってくれるので、回転域によってパワーの落ち込みがないと評価されています。

またステアリングに関しても、124スパイダーは「昔ヤンチャだったドライバーが乗ると超が付くほど面白い」と評価。一方、マツダ・ロードスターに対しては「素人向き」とのこと。要するに124スパイダーは「自由自在にドリフトコントロールが可能」ってことらしいです

土屋圭市さんは富士スピードウェイのレーシングコースで124スパイダーを試乗したらしいですが、どのコーナーでもドリフトできちゃうとのこと。まさにノーブレーキでアクセル全開。ハイパフォーマンスカーと比較すると124スパイダーはさすがに見劣りするものの、それでもほとんど一発でドリフトが決まって、本当に腕のある中級ドライバーならすごく楽しめるとのこと。

124スパイダーのサスペンションはフロントは硬めにしつつ、リヤは結構ストローク量を残したセッティングだから、オーバーハングのようなリヤオーバーステアを誘発させるので、ずっとステアリングを切って待っていればリヤが流れてくる。1.4Lターボエンジンのパワーでここまでできるのは、シャーシのバランスとギヤやパワーの出し方がトータルで絶妙だからと分析。

これだけコーナーで流しっぱなしにできるモデルは124スパイダー以外ではほとんど少ないらしい。オーバーステアの出方もじわじわ出るタイプで自然な感覚だから、124スパイダーのコントロール性も抜群。腕さえあればクルマの向きはどんな方向にも変えられる124スパイダーのネガティブな弱点は一切なしと、アバルトのチューニングに対してべた褒め。

価格は400万円を超えてても、124スパイダーは安いと思わせるクオリティーの高さだったとのこと。本当の自動車のプロにここまで言わしめるのだから、本当に124スパイダーはすごい出来なんだろうと思わせます。

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実燃費はロードスターが優秀も…


ニューモデルマガジンX4月号 朝岡利道
ラストは実燃費の比較。我らがマガジンXさんがロードスター(2.0L NA)と124スパイダー(1.4Lターボ)の実燃費を比較してくれました。試乗したロードスターは電動開閉式ルーフの「RF」になります。

マガジンX4月号
まずロードスター「RF」の実燃費を確認すると、市街地燃費が14.7km/L。高速燃費が19.0km/L。エアコンON・OFFでも市街地燃費は平均14km/L超えと優秀。スポーツカーというカテゴリーで考えると十分すぎる合格点。

マガジンX4月号
続いて124スパイダーの実燃費を確認すると市街地燃費が12.2km/L。高速燃費が17.4km/Lだったらしい。つまり124スパイダーよりも、本家のロードスターの方が実燃費に優れてるという結果になります。

ただカタログ燃費を比較すると、そもそも両者に大きな違いがある。ロードスターRFのカタログ燃費が15.6km/Lに対して、124スパイダーが12.0km/L。むしろ燃費達成率では124スパイダーの方が優秀。

だから正直甲乙は付けがたいと思います。どっちも維持費やランニングコストは気にする必要はほとんどないでしょう。


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124スパイダーの試乗まとめ


124スパイダーの試乗インプレッションをまとめると、デザイン以上にロードスターとの違いは大きそうです。一般的にOEM車はエクステリアを少し変えるだけってのが多いですが、これほど中身まで大きく異なるOEMも珍しい気がします。国産車メーカー同士では絶対にありえないでしょう。

記事では「ロードスターにマツダが思い描く世界観があるように、アバルト124スパイダーにもフィアットのエンジニアが描くクルマ像がある」と言及されていることからも分かりますが、それだけ124スパイダーとロードスターは全く中身が異なるオープンカー。

だからといって、もちろんそういった大きな違いが決してネガティブな問題を発生してるわけではなく、むしろベストカーの試乗で 「安直なOEMではなく、まさに価値のあるコラボレーション」と評価されていた言葉がまさに言い得て妙と言えます。

良くも悪くも、124スパイダーとロードスターはほぼ別々のクルマと認識する方が正しいでしょう。それだけ124スパイダーは「ロードスターとは相反するコンパクトスポーツらしい仕上がり」になってる雰囲気です。

だから、この試乗記事では「124スパイダーもロードスターも両方買っちゃえよー」とかなり雑に締められてて笑いました。124スパイダーの価格がどれだけ高くなるか分かりませんが、そんな簡単にポンポンと買えたらみんな誰も悩まないっつーの(笑)